ご主人は昨年会社を退職され、これから夫婦二人がのんびり快適に暮らせる家にしたいというご希望です。
お客様ご夫婦に事務所まで来ていただき、以前手がけた古民家再生の再生前、完成後の写真、工事中の写真をプロジェクターでお見せし、設計に関する工夫、工事の方法などをお話しました。
すると「大変よくわかりましたが・・・家の写真を撮ってきたので、見てください。こんな家でも再生できるものですかねえ」とご主人。

差し鴨居が入っている(ガラス戸の上の横材)

梁は長ホゾにして鼻栓を打っている

柱が傾き、ガラス戸はピッタリ閉まらない
写真を見せていただくと、柱や梁が黒光りした築100年程度の民家。「この構造なら十分再生できますよ」と菅野。
「ただ、再生しても十分な耐震強度になるのか、あと何年持つのかが心配で・・・」と、不安げな様子。
そこで、菅野と田中がお客様のお宅へお邪魔し、現況を見せていただきました。
お客様のお住まいは低層のマンションが立ち並ぶ住宅地の中、生垣に囲まれて品よく建っていました。ただ、柱は少し傾いていて、土壁も所々傷んでいます。建具や柱と壁の境には隙間も多く冬は寒そうです。また、基礎が無く柱は石の上に載っている状態・・・この建物の再生は相当大掛かりな工事になりそうです。
その内容を率直にお話しすると、
「そうですか・・・でも、この家に使ってあるような木材は今では手に入らないでしょう。だから、とても惜しいと思うんです」
この言葉に「・・・ちょっと待ってください。日本の山には木が余っているんですよ。正直に言うと、この家に使ってある木は、確かに柱は桧ですが現在市場で普通に売られている太さです。他の木材は杉とか松で結構安価に手に入るものばかりです」と菅野。
「そうなんですか!?でも、今時こんなしっかりした家を造ってくれる大工さんはいないんですよねえ」
「いえ、そんなことはありません。腕の確かな大工さんはたくさんいます。それに、古民家再生は、現場で木を加工できるような大工さんに頼まないとできませんよ。私たちはいつもそういう大工さんと仕事をしています」
菅野の言葉に驚いた様子のご夫婦。
「私は、ずっと勘違いしていたようです。ところで、この家を大地震にも耐えられる強度にすることはできるんですか?」
「敷地にあまり余裕がないので、杭を打ったり地盤改良をすることはできません。そうなると、残念ですが、この家を補強しても建築基準法で規定されている強度が限度だと思います」
「免震構造にも興味があるのですが……」
「地盤が相当よくないと免震構造は無理です。それに、風による横揺れの問題もありますし・・・免震構造を採用するには相当高いハードルを越える必要があります」
「そうですか、ハウスメーカーのカタログにはいいことばかり書いてありましたが……」
そんな話をしばらくして、
「いやあ、今日は来てもらって本当によかったです。この家のリフォームにこだわっていると、自分達の望む間取りにならないみたいだし、国産の木を使ってしっかりした家を大工さんが造ってくれるのなら、いっそ新築という選択肢も有りだなと思えてきましたよ。二人でよく話し合ってみます」とお客様。
確かに古民家再生は魅力的です。新築の住宅では出ない味があります。家の歴史も残ります。しかし、その家に何を求めるのか?で選択は変わるはずです。弊社はお客様に対して無理に古民家再生をお薦めしません。メリット、デメリットを説明して、後はお客様の判断に従います。
このお客様は、新築という選択をされ、現在弊社で設計中です。