私は寺院の改修や古民家再生の設計をするために、大変多くの古い建物を実地調査させていただいています。
私自身、古い建物や木材、職人の技が大好きで、こういった調査をさせていただけることに喜びを感じています。
そんな中で、いくつもの“いい仕事”の痕跡に出会うことがあります。
“いい仕事”かどうかは、一般の人が見ても判らないかもしれませんが、私達のように専門家から見ると、感激するような“いい仕事”がいっぱいあるのが、古民家やお寺です。

現在は、配慮のある“いい仕事”が匠の技ではなく、技術の進歩によって補われています。技術の進歩とは、過去の人達が、その時代にできる最善の仕事を精一杯してきたあかしである“いい仕事”が裏付けとしてあるのです。

最近調査した江戸時代中期に建てられたお寺でも大変すばらしい“いい仕事”に出会いました。

この写真。普通の小屋組ですが、パッと見てもなかなかの“いい仕事”です。小屋束が貫で固定されています。最近は雲筋交と言って、同じような材料を釘で小屋束の側面に打ち付けて固定するだけです。さらにこのお寺の小屋貫は、単に通し貫になっているだけではなく、柱の中で渡り腮になっている可能性が高い!いままでの経験からもそのように感じました。大変堅固で貫がビクともしないのです。

また、小屋束の表面を見てもらうと判るのですが、“手斧はつり”で仕上げられています。 山の中から木材を下ろしてくる時は、少しでも加工して重量を落としたいがために、このように加工する事もあったと、調査に同行してくれた宮大工さんが教えてくれました。私も手斧で製材するのを見た事がありますが、大工さんが大変器用に手斧ひとつで丸太を角材にしていく様は、見事の一言につきます。それもかなり短時間で製材されていくのを覚えています。

そして注目してもらいたいのが小屋束の根元。

なんと、送り蟻で小屋梁に固定されているのです!
丸太に込み栓をする訳にはいかないので、仕口を蟻にして抜けないようにしてあるのです。
現在ですとカスガイ等の金物があるので簡単に抜けないような工作はできるのですが、金物が貴重であった昔は、技を使って抜けないような工夫がしてあるのです。

たいへん“いい仕事”に出会えて、とても気分が良くなりました。
現在、こういった技を使うことはなかなか難しいかもしれませんが、“いい仕事”の出会いを通じ、私達が「いにしえの匠が、こんな工夫をしていたんだぞ!」ということを紹介することでみなさんが日本の匠の技を再認識するきっかけになればと思っています。
あなたの家にもこんな素敵な技の痕跡を残してみませんか。