先日、老年の男性が事務所を訪ねてみえました。
「道路が屋敷を貫通することになって……家を曳くか、壊さなければいけないんですよ。どうしたらいいのかわからなくて……。」
以前から話のあった道路の延長計画が、ここへきて急進展。いよいよ測量も終わり、買収と補償の交渉が始まったとのこと。
「築何年の家ですか?」
「80年くらいです。父親が大工さんに頼んで建ててもらったと聞いています。ただ、2階建てで90坪以上の広さがあるんですよ。息子はハウスメーカーで家を建ててしまったので……私と妻と二人で暮らすには広すぎるし、間取りが悪くて住みにくいんです。でもねえ、壊してしまうのは忍びなくて……。」
「お聞きする限りでは、大工さんがしっかり手をかけた家のようなので、残される価値は充分あると思います。でも、それだけ大きな家の古民家再生は工事費が随分かかると思いますよ。多分、コンパクトな家を新築したほうが安く済むでしょうね。問題は、その家に対する愛着です。」
「いっそ、2階建てを平屋建てにすることは……?」
「一度お宅をしっかり見せてもらわないと何ともいえませんが、多分可能だと思います。」
ということで、その日はお帰りになりました。
しばらくして……
「菅野さんに言われた“家に対する愛着”という言葉が気になってねぇ。一度、家を見てもらえませんか?」
という電話がかかってきました。
早速、お宅にお邪魔して、家の中を見せてもらいました。

▲千本格子の建具と太い差し鴨居

▲幅50センチ!踏み天井の無垢板「これは、素晴らしい家ですねえ。お父様は普請がお好きだったんですか?」
「そんな様子はなかったけどねぇ。ははは。」とご主人。
「この家なら、文化財的な価値もあると思いますよ。私は市の文化財審議委員をしていますが、この家なら是非残して欲しいですねぇ。」
「そうですか。そんなにいい家ですか!?」
「はい。この家ならお金をかける価値は充分あります。でも、この大きさのまま維持するのは大変でしょうから……先日ご主人がおっしゃっていたように、平屋建てに減築したらどうでしょう。そうすれば、曳き家とリフォームにかかる工事費は少なくて済みますし、この家なら、まだまだ長持ちしますよ。新しい感覚でリフォームすれば、必ず住みやすい家に変わって、息子さんたちも驚くはずです!」
と、説明する私もついつい熱が入ってしまいました。
実は、古民家再生の最大のハードルは、家族の理解です。ご主人がその気になっても、家族の反対で実現しないこともあります。ところが、このお宅の奥様は、ご主人の横でにこにこ私の話を聞いてうなずいていらっしゃいます。どうも、この家に対して、少なからぬ愛着をお持ちのようです。
後日、ご主人が再度来社されました。
「あの家を調査して、平屋建てにする計画をしてもらうと、どのくらい費用がかかるんですか?」
「調査と第一案の作成には20万円かかります。でも、その後、設計監理契約をしてもらえば、そのお金はお返しします。」
「そうですか。じゃあ、お願いできますか。」
こうして、とてもとても楽しみな仕事が始まることになりました。