2009年を振り返る (岐阜県多治見市 虎渓山 永保寺本堂・大玄関)


菅野良司

孕石順昭

東松泰志

野村建太

長井真美

武田亜紀子
 
小栗未麻
 
谷本太一
 
池田大樹

倉本真衣
........................................................................................................................................................................................................

   ■現場にゆっくりした時が流れている

   ■もう少し設計士の役割をわかって欲しい
 
........................................................................................................................................................................................................

現場にゆっくりした時が流れている

   菅
「このフリートーキングの前に、2009年で一番印象に残った建物は何ですか?というアンケートをスタッフ

     全員に配って、コメントを書いてもらいました。その結果、一番多くのコメントが寄せられたのは、まだ工事

     中なんですけど・・・永保寺の本堂でした。ただ、工事中だから余計に、伝統的工法の構造が見られたと

     いうことも印象に残った原因かもしれませんが。最近では、永保寺のような伝統工法の伽藍は珍しいです

     から・・・事務所としても、こういう設計を手掛けられたことはすごくありがたいことだと思っています。永保寺

     は、平成15年の火災で本堂、大玄関、庫裡が焼失してしまったんですが、夢窓国師が作庭したお庭が

     国の名勝、開山堂と観音堂が国宝に指定されているということもあって、多治見市民や岐阜県民の多く

     の方が親しみと誇りを持っている。そのためもあって、焼失してからすぐに募金活動が始まって翌年には

     もう再建が始まりました。そして、その全伽藍再建の設計を私どもが依頼された。本当に幸せなことだと

     思っています。野村君、今の状況を教えてください」

   
「今は、大玄関と本堂の工事を進めています。本堂屋根の桧皮が葺き終わりまして、荒壁も全部つけ

     終わりました。年内には大玄関の唐破風の桧皮葺きを完了する予定です」


   
「実は、境内は建築基準法の22条地域に指定されているから、桧皮葺きは不可能なんだよね」

   
「そうなんです。これはまあ、いろんな方の・・・特に多治見市民が元の姿に復元して欲しいという熱意が

     大きかったために、奉賛会の方々とか、再建委員の皆さんが市と県に働きかけてくださって・・・その結果、

     建築基準法適用除外にしていただいたという非常にありがたい話で・・・桧皮葺きが実現することになり

     ました」


   
「建築基準法の適用除外になった結果、構造も私どもに一任された。それなら・・・伝統工法で再建しようと。

     大工さんも高山市在住の八野明さんという大変優秀な棟梁に恵まれて・・・工事はそういう形で進んで

     いるということだね」

   
「はい。完成まであと一年半かかります。今、現場は建物の構造ができたところで、見学するには一番

     面白いところだと思います」

   
「事務所のスタッフは、機会をみつけて見学してきたわけだけれども・・・印象に残ったことを教えてください」

   
「私は建て方のときと、桧皮葺きの最中に見学することができました。やはり、通常の現場とは違って、

     本物ばかりというか・・・木材もいい材料が使ってあるし、継手なども伝統的な加工がしてあったり・・・

     普段は、なかなか見ることができない工事で、すごく勉強になりましたね。それから、通常の現場は、

     たくさんの職方が入ってバタバタしていますが、現場自体の空気がゆっくり流れている感じがして、

     文化財的な建物の工事現場ならではだなと、すごく印象的でした」


   
「私が見に行ったのは二週間ほど前・・・桧皮葺きがもう終わるくらいのときです。現場に素屋根がかかって

     いるのが印象的でした。こんな現場は今まで無いもんですから、やはり、すごい現場だなあと改めて思い

     ました。私も木造本堂の現場を監理してきましたが、全て、筋交いで補強してボード貼りでした。だから、

     庫裡もそうでしたけど、職人さんが竹小舞を編んで、荒壁を塗って乾燥させてという工程をしっかりやると

     いうのは興味がありました。実際に現場へ入ると、すごく整然としていて、職人さんがほとんどいなかった

     ですから、すごく広々としたところでゆっくり時が流れている。本当に一つ一つ丁寧に造っているなあと

     いう感じを受けました。それから、桧皮葺きですけれども、あんなに間近で見るのは初めてで・・・

     桧皮を一枚一枚、竹の釘で打ち付けながら固定する作業を間近で見せてもらいました。そういえば、

     通常の木造本堂は、野地板張ってゴムアス(防水シート)敷いて屋根材を葺くんですけど、桧皮葺きでは、

     野地板を全面に張らないんですね?」


   
「そうなんです。野地板はすのこ状に張るんです」

   
「下から見上げたら、野地板の隙間から桧皮が見える。上で葺いている桧皮が時々落ちてくる(笑)という、

     今までにない感動的な経験をしました」

   
「あれは手抜きじゃなくてね、野地板の隙間から風が抜けて、桧皮を乾燥させるんだよ」


   
「ゴムアスを敷くと桧皮が呼吸できなくて、腐ってしまうんですね?」

   
「今、職人さんが少なくて、ゆっくり時が流れていたという話がありましたが、庫裡の時もそうだったんです

     けど・・・仕上げ段階になると、すごい数の職人が現場に入るので、かなり騒然としますよ(笑)」

   
「一番職人さんがいないときに行ったんだ(笑)」

   
「そうですね、実は、今一番ゆっくりしてる時ですね。荒壁を乾燥させているとか、桧皮葺き職人は屋根の

     上にいるとかで、室内にはたまたま人がいないのですが、建て方の時はバタバタしますし・・・」

   
「ただ、土壁をああやってのんびり乾かしているというのは、確かに優雅な話ですよね」

   
「工程に余裕があるというか・・・職人さんがずっと現場にいる状況が続かない」

   
「そうですね」

   
「人間の都合というよりは、材料や素材の都合に合わせているというような感じがあって・・・

     どちらにしても、得難い経験だと思うよ」

▲ページTOP(目次)へ


もう少し設計士の役割をわかって欲しい

   「桧皮葺きの最中と、小屋組ができたくらいの時に見に行きました。桧皮葺きのような普段見られない

     工事はすごく面白かったですし、小屋組は野村さんに説明をしてもらったんですけれど・・・桁に大きな

     荷重がかからないように工夫したとか、点検用にキャットウォークを造ったとか、伝統工法だけじゃなく

     ていろいろ考えて設計しているんだということが印象に残りました」

   

   
「伝統的工法を採用するだけじゃなくて、構造的弱点になるような部分を改良したのが、永保寺の特徴

     でもあるので」

   
「まあその辺が菅野企画設計の真骨頂だね(笑)」

   
「話を聞いてイメージはしていたんですが・・・本堂の大きさは圧巻で、印象的でした。土壁も実際に見ると、

     すごい迫力がありました。丁寧に作業をしている職人さんを見ることも普段なかなか経験できないので・・・

     伝統的な建築は職人さんが支えている部分がすごく大きいんだなと感じました」



   
「そうだね。伝統的な建物を見ると、素材的なこととか、伝統的な技術ということにどうしても目がいく

     んだけれど・・・実は、構造的な面でも合理的に考えて設計しているというのが大事なことで・・・

     そうですよね?孕石さん」

   
「(笑)木造の場合、構造担当は設計が終わると自分の手から離れてしまって・・・あとは意匠設計や

     大工さんの手に委ねられるので。あまり強いこだわりがなくなってしまうんですよね、実は。2日前に

     野村君と一緒に永保寺の現場を見に行って、本堂の桧皮葺き屋根の棟まで、56歳の私がもう必死の

     思いで一番上まで登りました。桧皮が葺いてある面を見ていると、本当に細かい仕事で、屋根そのものが

     伝統工芸品という感じで素晴らしいなと思いました。それから、上から屋根の稜線を見ていると、非常に

     微妙な曲線でてりが出来ている。むくりがあっててりがあるという、その微妙なところがよく分かる。

     これはありがたい経験をしたなと。もうこれで、一生こんなことはないだろうと思いましたよ」



   
「わかりませんよ、これから引っ張りだこになるかもしれない(笑)」

   
「いや、すごいところまで登ったなということですよ。瓦屋根と違って桧皮というのはすごく優しい感触

     だなあと。登った感じもすごく優しいので、あまり恐怖感が無いんですよ。素屋根がかかってるせいも

     あるかもしれませんが・・・非常に感動しました」


   
「小栗君は?多治見は君の地元ですよね?」

   
「何といっても、桧皮葺きの重ね葺きの厚さですね、軒付けの厚みが30センチくらいあるのに衝撃を

     受けました。それから、竹釘ですが、日本でたった一組の老夫婦が一個ずつ作っていて、小さな釘なのに

     非常に高価で・・・という話が印象的でした。これは今年のことではないんですけれど、庫裡の構造見学会

     に来たおじいちゃんやおばあちゃんが“みんなの力、みんなの力”と言っていたのが印象的でした」

   
「そうですね。伝統的な建物を見ると、関わった一人一人の情熱が形になっていくのをつくづく感じますね。

     工業製品ではないから・・・。造り手にしても、みんながそれぞれ培ってきた技をそこで生かしていると。

     私自身も、今回幸運にも本堂の懸魚の図柄を描いたり欄間透かし彫りの下図を描いたり・・・本当に

     素晴らしい経験をさせてもらっています。老師さんがやってみろと言ってくださったので、今まで培ってきた

     ことの集大成をさせてもらっている。そして、その図に基づいて職人さんが腕を振るう。本当に手造り、

     一つとして既製品がない。こういう現場は怖さもあるけどね。完成した時に、本当にいい建物になる

     だろうか?という心配は付きまとうけど、やはりみんなで造ったという気がしますよね。私も大変幸せな

     経験をさせてもらっていると思います」



   
「ひとつ言わせて欲しいんですが・・・職人の技とか、伝統的な技に当然注目がいくのはわかるし、建物は

     もちろん職人の技の集大成ではあるんですけど・・・もう少し設計士の役割をわかって欲しい。現場では、

     旗振り役が必ず必要で、その役割が設計士なんです。永保寺には八野明さんという棟梁がいて大事な

     仕事をするんですが、工事を請け負っている中島工務店の監督も大きな役割を担っていますし。でも

     結局、現場の最終決定には設計士が責任を負うことになるんです。棟梁も監督も“設計士さん、ここは

     どうしますか?”と聞いてくるので、決断を下さないと現場が進まない。大きな責任が肩に乗っている気が

     しますが、実はそれが大事で、そういう役割をこなして初めて、現場がうまくいくのかなあと私は思います」

   
「そうだね。例えば、重源というお坊さんが東大寺を造ったとか、小堀遠州が桂離宮を造ったとか言われ

     ているけど、彼らが実際鑿を持ったわけじゃないよね。プロデュース、デザイン、現場で指示をしたんだ。

     ところが最近は、木工を担当する大工さんだけに過大な焦点が当てられる傾向がある。いつからそう

     なったんだろう。設計士の役割をもう少し世の中の人が認めてくれるとうれしいなあとは思います。・・・

     でも、まあそんなことより、完成した建物がみんなに愛されることが一番なんだよ。誰が造ったなんて

     どうでもいいじゃないの、これは永保寺の老師さんから教わりました(笑)」


▲ページTOP(目次)へ

........................................................................................................................................................................................................
菅野企画設計 新築住宅TOPへ
 寺院住宅TOPへ
 環境住宅TOPへ
 / 『菅野企画設計へ一度来てみませんか?』