スタッフの雑談/家づくりのノウハウ

テーマ「古民家の性能」

参加者紹介

菅野良司
高い設計力、気さくなスタッフ育てています。
孕石順昭
構造設計一級建築士
長井真美
家族のたくさんの「想い」に応えたい。
武田亜紀子
「こんな家にしたい!」思いをたくさん聞かせて
野村建太
こだわって下さい!家はライフスタイルを表します。

『古民家の性能』その1

◆土壁は壊れながらエネルギーを吸収する◆

菅野(以下
「今回は“性能の向上”というテーマで話をしたいと思います。住宅の性能には、断熱性能とか気密性能とか・・・居住性に関する事もありますが、最近は耐震性能に高い関心が寄せられていますよね。せっかく古民家を再生するのなら、大きな地震にも耐えられるような家にしたいと希望をされる方が多い。耐震性能を向上させる場合、具体的に、どういう方法を採用しているのか聞かせてください。」
野村(以下
「一般的によく採用しているのは、筋交いで固める方法ですね。歴史のある建物は、柱を貫で固めて土壁をつけている場合が多いんです。その場合、壁がたくさん有れば高い耐震性能が期待できると思うんですけど・・・基本的に、壁の少ない建物が多いんですよ。だから、筋交いを入れた壁を新たに設けて、耐震性能を向上させるという方法になってしまう。」
「古民家の壁は土壁なんだから、その強度で耐震力を持たせるのが理想的なのかもしれないけれど、現実には、強度のある構造体になっていないという場合も多いよね。孕石さん、土壁でも、耐震強度が期待できる土壁とそうじゃない土壁との差はどこで判断すればいいの?」
孕石(以下
「貫が入っているかどうか。下地の小舞も含めて、きちっとした施工がされているかどうかが重要です。手で押すと簡単に動くような壁では、地震で強くゆすられた場合、壁土が落ちてしまう。本来の土壁は、貫や柱、梁とのジョイント部分が少しずつ壊れながらエネルギーを吸収して耐える。ところが、あまりにも粗雑な造りの場合は、土壁がそのままガサッと落ちてしまう。これでは耐震性なんて期待できないですよね。」
「昔は、近所の人が協力し合って家を造った、という話をよく聞く。伯父さんが壁を塗ったとか、皆で土を捏ねたなんて・・・。そんなことがきっと普通に行なわれていたんだよね。」
もっと知りたい!どうやって固定されているの?

土壁をクローズアップすると……

片面に土を塗った状態。乾燥後、反対側を塗る裏返しをします。塗り上がった状態貫は柱に貫通されます。それぞれの貫は楔(くさび)で固定されます。竹小舞や土壁がさらに架構を拘束し、全体で柔軟に力を受けます。

筋交をクローズアップすると……


筋かいの先端は金物でしっかりと固定されます。集中的に力がかかるので、引き抜かれないよう基礎から突き出たアンカーボルトで架構はしっかりと拘束されます。

◆耐震強度のある土壁は少ない◆

「古民家の土壁で、天井の上で終わっているのがあるけど・・・あれはどう考えるの?」
「梁ないし桁まで達していない壁は、屋根から入ってきた力が基礎までスムーズに流れない。構造材の間が一枚の壁なっている必要があるので、中途半端に天井で止まっていたり、床で止まっているというのはまずい。ただ、当時はそこまで考えてなかったんでしょうね。大工さんも、見えるところをきれいに、というのが基本的な姿勢だったから・・・そこが耐震性能を低くしている要因ですよね。」
「最近行政の中にも、土壁の強度を積極的に認めようという動きが出てきている。大学でも積極的に実験をやっているようだし。ただ、強度が認められる土壁と、現実に古民家で目にする壁は、ちょっと違う。手で押しただけでふわふわする壁ではねえ・・・ああいう壁は、小舞下地の竹が柱の近くに編んでなかったり、ピッチが荒いんですよね。」
「貫が入ってないということも・・・」
「本当!?」
「三尺(90cm)ピッチで入っていればいい方ですよ。」
「本数が少ないってことだね。」
「そうなんです。少ないんですよ。よくあるパターンは一間(1.8m)ピッチくらい。そんな壁は、手で押しただけで本当にふわふわしてしまって・・・壁として強度が無いんですよね。だから、貫のピッチがものすごく大切だと最近思うんです。」
「それともうひとつ、貫が薄いという問題ね。厚みが15mm程度の板しか使っていない。現在工事中の永保寺本堂は、貫の厚みは3センチ以上あるし、ピッチも60センチ以内。その貫に小舞下地を取り付けると、押しても引いてもびくともしないんだよね。」
「貫のピッチは、柱と壁の隙間に細い物を差し込めばすぐ分かる。一枚の壁の中で貫が一段しか入っていないということもよくあることです。」
「昔は、土壁は丈夫なんだという先入観があった。でも、阪神淡路大震災で土壁の家がバタバタと倒れたんで、そんな認識を今も持っている人は減っていると思うけど・・・。最近行政が土壁の強度を高く評価し始めたからといって勘違いしないで欲しいのは、本当に耐震強度がある壁として認められる土壁は、現実には少ないという事ですよね。」
「そうですね。施工がきちっとしてあれば、十分に耐震性能があるんでしょうけど・・・」
基礎知識 土壁と筋交壁とは?
土壁(湿式工法)
土壁は貫と呼ばれる水平材と、竹を網目状に編んだ竹小舞を芯材として土を塗りこんだ壁のことをいいます。時間と手間がかかるので現在ではあまり採用されません。施工精度によるばらつきがあるのが難点ですが、しっかり監理すれば丈夫な壁になります。
筋交壁(乾式工法)
壁の中にあるバッテンが筋かいで、建物が動かないようにがっちりと3点固定をします。地震時等には大きな力が加わるので、コンクリートの基礎を設けて持ちこたえられるようにする必要があります。指定された金物で固定するので、正確にビス止めできれば施工精度に大きなばらつきは生じません。
小屋裏の中って土壁はどうなっているの?
お見事で賞!
理想的な状態。梁や桁まで土壁がしっかりと達しています。こういった優れた施工はあるようで無い事の方が多いのです。
残念で賞!
桁まで微妙に達していない状態。こういう残念な状態も良くあります。
やめま賞!
天井で土壁が終わっている状態。見えるところだけ塗ったパターンです。これではせっかくの土壁の強度が生かせれません。
手抜きで賞!
桁まで達しているのに、裏返し塗りがしていないパターン。

『古民家の性能』その2

◆今までの木造住宅は水平剛性が考慮されていない◆

「菅野企画設計では、土壁を利用した耐震補強をあまり採用していない。それは、古民家の間取りの特徴は開放性なので壁が思うように設けられない。ところが、強度のありそうな土壁でも、筋交いに比べると期待できる強度が相当低いというのがその理由。そうなると、やはり筋交いと面材、つまり板を貼って耐震補強を、という方法論になるわけです。ただ、この方法を採用する場合は水平剛性が大変大切になると思うので、次は、これについて話をしましょう。」
「水平剛性ですね。今までの木造住宅は、水平剛性がほとんど考慮されていないというのが実情です。どうしても間取り優先で、柱とか梁という構造材については後回しの設計が行なわれてきたので、筋交いのような耐震要素の配置も考慮されていない。間取り上邪魔にならないところに壁を配置していく・・・そうゆう状況だから、とても水平剛性まで考えが至らないんだと思うんです。」
「なるほど。具体的に話を進める前に・・・水平剛性という言葉が一般的に普及してないから少し説明します。水平剛性は、床面とか屋根面を頑丈にすること。高い強度を確保すれば、地震で受ける大きな横力をスムーズに壁へ伝えることができる。強度が足らないと床が歪んでしまう。だから、菅野企画設計では、水平剛性も考慮しながら設計している。これは、古民家再生に限らず新築住宅でもそうしているよね?具体的な方法を教えてください。」
長井(以下
「新築住宅の設計では、桁・梁の上に直接24ミリの合板を貼って水平剛性を確保するようにしています。以前は、梁の上に根太を打って、その上に12mm厚の構造用合板下地で仕上げという仕様にしていましたが・・・その方法より高い水平剛性を確保するために、根太を省いて直接梁に厚い構造用合板を打ち付けます」

◆壁の配置がよければ沢山の壁は要らない◆

「うちの事務所では、住宅の設計は在来工法でやっています。つまり、大工さんが建てる工法ですけれども・・・梁と梁、梁と桁や梁と胴差の接合は仕口と呼ばれる、木材同士をかみ合わせる方法を採用しています。もちろん、金物で補強をしていますが・・・でも、正直この接合は横から力を加えると弱いんですよね。現実には。地震で倒れた建物を観察すると、渦巻き状に捩れながら柱が倒れている。あれは、仕口が破壊したためにおこる壊れ方だよね。もし、2階の床が面として強ければ、柱が同じ方向に倒れるはずでしょう。」
「従来のように梁の上に根太があって、その上に床が貼ってあると、床と梁が一体化していない。だから、大きな横力を加えたときに、床がぐねっと歪みやすいんです。だから、梁に直接構造用合板を貼って水平方向の剛性を高める。」
「古民家再生をした岐阜市のA邸は、踏み天の上に構造用合板を貼って補強をしました。」
「梁の上に床板が張ってあったんだね。」
「そうです。」
「古民家では、2階が薪置き場や小屋裏として利用されていることが多いから・・・知多市のK邸はどうだったの?」
武田(以下
▲梁に直接構造用合板を貼って水平剛性を高める
「K邸は2階を寝室として使いたいと、ただ、既設の梁が細かったので踏天の上にもう一度梁をかけて構造用合板を貼りました。」
「なるほど。」
「水平剛性が大切だというのは・・・どうしても南側に広い窓を開けたいとか、リビングのスペースを広く取りたいとか、そういう希望ばかりを優先して間取りを作っていくと、結果的にバランスが悪い建物ができてしまう。壁の配置のバランスがよければ、そう沢山の壁は要らないだろうし耐震性もあげられるんだよね。バランスの悪い建物は、実際設計してみれば分かるんですけども・・・水平剛性の計算もする必要がある。水平剛性を念頭に入れながら壁をバランスよく配置することが大切です。」
▲梁の上に直接24mmの構造用合板を貼った事例
▲24mmの構造用合板
▲根太の上に12mmの構造用合板を貼った事例
▲梁と梁の仕口
▲梁の接合の金物補強
▲横からの力に弱い

『古民家の性能』その3

◆下屋の壁に力を流す方法◆

「ほとんどの古民家は、主屋の外に下屋がありますよね。廊下とか縁側になっているようなところ・・・。古民家の間取りはとても開放的なので、そういう下屋にも耐震壁を造って力を流さないと、耐震力が足りない。主屋は2階の床を固めれば、1階の壁にスムーズに力が流れるけど、下屋の部分に力を流すのはなかなか難しいでしょう。その辺はどういうふうに考えていますか。」
「新築の場合は、そういう計画はなるべく避けてほしいんですが(笑)・・・ただ、古民家再生は、もともと他人が造った家の耐震性をいかにして高めるかということですから、結局、その建物に最適な補強方法を考えるしかない。出来る限りスムーズに力が流れるような方法としては、やはり、床や屋根に構造用合板を張って水平剛性を確保する。この方法で重点的に補強すればかなり効き目があると考えています。」
「岐阜市のA邸では鉄骨のブレースまで入れたよね。」
「主屋の屋根ですね。」
「下屋の屋根裏にも入れたんじゃないの。」
「そこは部分的に・・・基本的には、火打ち梁を入れて構造用合板で水平剛性を高める方法を採用したんですが、どうしてもそれが出来ないところがあって、鉄骨のブレースを入れました。」

◆駿河湾沖の地震で実証された◆

「今、孕石さんはやむを得ない方法でと言ったけれども、古民家が建てられた頃と今の考え方は明らかに違うんだから、最新の構造の考え方や方法を取り入れるということが、菅野企画設計のノウハウでもあると思うけどね。いつも試行錯誤しながら、これがいいだろうとかあれがいいだろうとか・・・」
「そう、試行錯誤の連続で(笑)」
「先日の駿河湾沖を震源地とする大きな地震が起きたけど・・・震源地の近くに以前設計させていただいた木造の本堂がある。地震の後、被害の調査にいったら漆喰壁にクラックが入った程度だったので、ほっとした(笑)・・・あの本堂には今話した水平剛性を高めるという方法を採用した。震度6弱の大地震だったにもかかわらず軽微な被害で済んだのは、きっとこの方法が効を奏したんだと思っている。」
「もちろん、どんな地震に対しても有効だとは限らないですが・・・」
「当日は現場を担当した棟梁も調査に協力してくれたんだけど、とても喜んでいた。設計士は水平剛性を高めるなんて簡単に言うけど、大工さんは大変なんですよね。特に下屋の屋根面を固めるというのは、ものすごく面倒くさい。垂木を一本一本桁にはめ込んでいったり、垂木の間に転び止めを入れたり、構造用合板を長い釘で15センチピッチに打ちつけろとか・・・従来のように、桁の上に垂木を並べて、その上に屋根下地の板を直接貼ればすごく楽だよね。だから現場では、地震のときに必ず効果があるからと棟梁に説明して、仕事を進めてもらった。現実に、説明したように力が下屋に流れたことを一緒に確認して、とてもうれしかった。こういう実績を持っているということは、古民家再生を手がけている他の設計事務所や工務店とはちょっと違う点かな、と自負しています。ひやひやした分だけ(笑)」
▲下屋
▲小屋浦に鉄骨ブレースを入れた様子
▲小屋裏に鉄骨ブレースを入れた様子
▲駿河湾沖震源の被害にあった漆喰壁
▲地震後の被害調査の様子

『古民家の性能』その4

◆基礎には二つの役割がある◆

「今度は基礎の問題を話しましょう。ほとんどの古民家にはコンクリート製の基礎がないですよね。だいたいが石の上に建っている、石場建てという言い方をしていますけど・・・築50年ぐらいの住宅でもそういう構造のものが見受けられる。それなのに、どうして基礎が必要なの?一般の方は、そう思うんじゃないかなあ。基礎を新しく造るためにはものすごくお金がかかる。建物をジャッキアップして、土を掘って、鉄筋を組んでコンクリートを打つ・・・どうしてそんな事が必要なのかって」
「そうですね。まあ基礎が必要のない場所で建てることができれば、それにこした事は無いですよね。地盤が堅くて、石場建てで十分だというような立地条件なら。でも、昔に比べて人口が増えたせいで、家を建てる場所も選べなくなったでしょう。いろいろなところを住宅地として利用するような今の状況では、その土地の土は一体どういう履歴でできあがったんだろうと考える必要があります」
「なるほど」
「例えばこの一宮周辺は、木曽川の氾濫でできた平野ですから、細かい砂とか荒い砂が入り交じっている。大きな地震で揺すられた時には液状化する可能性があるわけですね。そういう事を考えていくと、石場建てで安心な家を建てられるような土地は限られるわけです。液状化を起こした時、基礎が無いと、その部分の柱は当然下がって、傾いた所に大きな力が加われば住宅は簡単に倒れてしまう。ですから最低限、布基礎を、それも鉄筋コンクリートの布基礎を柱の下に造ることが必要ですよね」
「それは、不同沈下の問題だけど、基礎には2つの役割があるよね。不同沈下を防ぐという役割と、もう一つは・・・最近の家は筋交いで壁を補強するので、構造が頑強になっている。そうすると、地震で横からの力を受けた時に、土壁の家では生じなかった引き抜き力が問題になる。筋交いの取り付いている柱には特に、上に引っ張られる力が生じる。だから、そういう柱はアンカーボルトで基礎と緊結する必要がある」
「そうですね。それは、筋交いで補強する在来工法の場合ですね。でも、伝統工法による限界耐力、つまり土壁による耐震構造も捨てがたい。どちらが優れているのかというのは非常に難しい問題で、地盤さえ良ければ、限界耐力は非常にいい性能を発揮する。ところが、地盤が悪い時には一体どうなるのかというと・・・想像もつかないくらい揺れて、場合によっては呆気ないほど簡単に倒れてしまう。じゃあ在来工法はどうなのかというと、建物を筋交いで固めるから大きなエネルギーをそこに集中させてしまう。つまりそれは加速度が大きくなるということですから、非常に大きな力がかかるということを意味する。だから、その力に耐えらるだけの筋交いを入れて金物で固めて・・・」
「浮き上がりを防ぐために布基礎、ベタ基礎を造る」
「そうです」

◆基礎を造るために建物をジャッキアップする◆

「基礎を造ることになると・・・武田君、東海市のK邸はどうしたの?」
「先ず、建物全体をジャッキアップさせて・・・」
「どのくらい?」
「人が柱の下をかがんで通れるくらい・・・1メートルくらいですね」
「岐阜市のA邸はもっと高く上げたよね?」
「そうですね。重機が入れるくらいなんで・・・1.5メートルくらいでしょうか。結構高く上げましたよ」
「工事会社は、機械で土が掘れたから楽だったでしょうけど・・・ジャッキアップはすごく高価についたよね」
「実は、そうなんですよ」
「K邸ではコストを抑えるために、工務店がいろいろ工夫していた。でも、工事のしやすさとか完成の精度を考えると、思い切って高く上げた方がいい。判断に迷うところだよね」
▲建物をジャッキアップして、べた基礎の配筋をしている様子。
▲基礎が完成すると、新しい土台を設置。
▲ジャッキアップしていた建物を少しずつ降ろして、土台や基礎と一体にします。
▲基礎工事に最低必要な分だけ、ジャッキアップした例。建物の規模や工事内容によって、違ってきます。
▲建物の下を人が歩けるほど、ジャッキアップしています。重機を使って基礎の掘削工事ができるため、作業がしやすくなります。

『古民家の性能』その5

◆石場建てを生かした補強◆

「古民家再生では、鉄筋コンクリート造の基礎を造ることが前提のようになっていますけど・・・石場建ての建物には足固めが綺麗にまわっている場合が多いんですよね。足固めと差鴨居で柱が固定されていると、本当にしっかりしてるんです。ところが、基礎を造ろうとすると、その足固めを切ることになる。土を掘るための重機を建物内に入れるために切らなきゃいけない。すると、柱の足元が固められてない状態になって・・・その状態でジャッキアップした建物を見ると、柱がぶら下がっているみたいで、すごく不安を感じます。基礎ができて、土台の上に柱が乗ってしまえばいいんですけれども。筋交いで固めるから基礎を造る必要があるんですよね?」
「もし、土壁で補強できたら・・・」
「そうなんですよ。限界耐力での補強方法が可能な場合は、基礎を造らずに石場建てを生かした補強ができなのか?と、思うんですが・・・」
「基礎を造らず古民家再生をするということですか!?」
「もちろん地盤もよくないといけないんでしょうね」
「限界耐力で考える場合は、簡単にいえば、柱と梁の軸組が平行四辺形に変形して地震に耐えるということだから・・・柱の根元が浮き上がるような力は働かない。ということは、基礎が無くて石場立てでも十分です。一方で、筋交いで補強するということは、壁を剛に固めるという事だから、柱の根元は当然浮き上がる。そのために柱や柱の取りついている土台をアンカーボルトで基礎につなぐ。つまり基礎は、おもりの役目で必要になる。そういう単純な理屈なんです」
「筋交いで固める限り、基礎はどうしても必要なんだということはわかるんですけど・・・いろいろな古い建物を調査したので、いい状態の土壁はどんなものかが判断できるようになってきて、同時に魅力を感じるようになったんです。だから、基礎を造らない新しい方法を模索したいなと」
「本当に状態のいい土壁で、お客様もその良さを理解している場合にはそれもいいかなと思います。でも、ある程度大きな地震の時は、どうしても土壁にひびが入るので補修が必要になりますよね。それをちゃんと説明して、お客様に納得していただく必要があると思います」

◆建物をジャッキアップするのは高くつく◆

「古民家再生では、基礎を造るのに大きな工事費がかかるので、できるだけ簡易なというか、ジャッキアップまでしなくてもできる基礎を考えられないかなあと思うんですけど」
「古民家の構造を調べて、土壁でなんとか持ちそうだとなれば、基礎は不同沈下を防ぐだけ・・・鉄筋を入れた土間みたいな考えでいいのではないかと思う。地震で液状化現象を起こすような地盤ばかりじゃないんだから、それぐらいで充分じゃないかと。ただ壁を筋交いで補強する場合には、やはり布基礎ぐらいは造る必要がある。でも、確かに、基礎を造るために建物をジャッキアップするのは相当工事費がかかる。東海市のK邸は床面積56坪の古民家再生で3000万円以上かかったよね?」
「そうです。工務店さんからは最初3500万円ぐらいで見積りが出たんですけど、いろいろ工夫をして、約3200万円で」
「キッチンやお風呂も全部取り替えたけど・・・それにしても、ジャッキアップして基礎を造るような工事をすると、古民家再生は新築するくらいのお金がかかる。そこまでお客様が望まれれば問題は無いんだけど・・・必ずしもそうじゃない場合は、できるだけ現況を生かしてという方法論、つまり限界耐力計算による補強も考えるべきだと思う。新築で限界耐力計算を採用するのは、手続きが複雑で、審査機関が先ず許可してくれないけれど、幸いにして、古民家再生やリフォームでは確認申請が要らないことが多いから(笑)・・・伝統建築の設計に長けた菅野企画設計なら選択肢のひとつだよね」
▲土壁に入ったひび割れ。土壁は、大きな変形をしても急激な耐力低下を起こしにくいので、伝統的な木造建築にとって有力な耐力壁です。しかし、大地震時には変形によるひび割れが発生し、補修が必要となることがあります。
▲柱に差さっているのが足固めです。大掛かりな基礎工事をするためには、切断しなければいけないので、一時的に不安定に・・・
▲足固めを後付けする方法もあります。基礎を造れなければ、柱脚部がバラバラに動かないように拘束することです。

『古民家再生』その6

◆柱を取り替える尺度◆

「建物の現況を調査した時、柱を残すのか、新しくするのか・・・どういう尺度で決めるべきか?」
「筋交いによる補強を考える場合、現在の建築基準法では金物補強が必要ですから、まずビスが効くかどうかではないですか」
「先日調査した時は、床下にもぐって柱の足元を実験したよね?」
「インパクトドリルを持ち込みました。ビスをもみ込んで抵抗があればカチカチカチとなるんですけど。あの建物のほとんどの柱は全然・・・」
「スポスポって感じだったね。見た感じはそうでもなかったし、木の色もきれいだったのにね。でも、きれい過ぎた(笑)。残念ですが、この柱はもうだめですと」
「それに、叩いても音が違いましたよ」
「特に杉や松は、ああいう被害にあいやすい。柱に桧を使っていればよほどいいんだろうけどね。でも、昔は桧がとても高価だったから、とても使えない。だから近隣に生えている杉や松を使ったんでしょうね。床下まで調査できないときは、柱の樹種で検討するのもひとつの方法だと思う。梁は取り替えが簡単にできるからいいけど、柱は、工事中にやはり取り替えようというわけにはいかないので・・・残すのか、取り替えるのか、設計時点ではっきり判断する必要がある」

◆石の上に乗っている土台は跡形もなく腐っている◆

「土台はどう?ほとんどがボソボソになっているよね。石の上に乗ってる場合はほぼ例外なく、跡形もなく腐っているか、虫に食われている」
「柱が直接石の上に立っていて足元が腐っている場合は、基礎の立ち上がり壁の分、足元を切ればいいんです。でも、白蟻の害にあっている場合は、結構上までやられていますよ。岐阜市のA邸は、柱にとてもいい桧が使ってあったので・・・取り替えないで床上で根継ぎしました。柱が土台の上に立っている場合は、土台がもうたいがい腐っていて、柱が土台にめり込んでいますね」
「石場建ての家は、柱が直接石の上に立っているけど、実はこれ、とても合理的なんだよね。柱が木の繊維方向に立っているから、強度も高いし、腐りにくい。ところが、いつの頃かわからないけど勘違いして、石の上に土台を渡して、その上に柱を建てるようになった。これが一番いけない。こんなことをしたら土台がすぐに腐って、柱がめり込む。繊維と直角方向に力を加えた場合は、木材はとても弱いんですよ。ひどい場合は家が傾いてしまう」
「石の上に土台を渡したのは、縁の下をふさぐ壁を造りたかったためじゃないでしょうか。石場建てだと、床下がオープンになって、猫やねずみが入り込むじゃないですか。足固めと土台の間に壁を造って、土台下の石と石の間から通風をとると」
「なるほど、そうかもしれない。でも、ほとんど家は、石が沈下したり周辺の土が流れてきて、土台と土が接してる状態だよね。ただ、床下の奥まで雪とか雨が入ってくる心配はないけど(笑)」
「昔は床下に雪が積もったと(笑)」
「アイデアはわかるんだけど・・・中が見えない分、逆に怖いよね。A邸でも、思わぬ所が腐っていた」
▲腐った柱の根元と土台
▲腐っていた下の部分を除去し、金輪継によって柱を継いだ例

『古民家再生』その7

◆座敷の柱を取り替えるのは難しい◆

「補強方法を検討する場合、いつも問題になるんですけど・・・古民家には座敷が必ずありますが、そこには長押とか天井の見切りが廻っているので、柱を取り替えたり追加したりするのは大変な作業になってしまうんです。だから、極力そういう場所を避けて柱や壁を増設することを考えます。和室はひとついじると・・・もう大変ですからねえ」
「だから、柱の取り換えじゃなくて根継ぎをしたくなるんだよね(笑)。孕石さん根継ぎの構造的な問題点は?」
「あまり推薦できる方法ではないですねえ。実験によると、木造の継手の強度は最大でも母材の2割くらいまでですから・・・いくら柱を金輪継ぎのような精巧な継手でつないでも、一本の柱の2割くらいしか耐力がないわけです。だから、その柱に曲げ力がかかると、大変な事になる。取り替えてほしいというのが本音ですね(笑)。木造住宅の造り方は、基本的にはホゾ穴を彫って、つまり断面欠損したところにホゾを突っ込むという考え方ですよね。だから、できるだけ見えないところで金物を使って強度を上げてやるしかない。そのへんのディテールを意匠設計と一緒に工夫する必要がありますね。上手な金物の使い方を、ね。」
「横から木を添えて柱を補強したこともあるよね?」
「よく採用します」
「根継ぎより、そういう方法のほうがいいの?」
「そうですね」
「だた、和室の柱ではそういうわけにはいかない。特に独立柱で、壁が取り付いてない場合は根継ぎも仕方がないと思うけれど・・・大きな力がかかる柱は、やはり横から木を添える必要があるということだね。壁の配置もうまく考えなくてはいけない。東海市のK邸では、四方から添え木して太い柱に見せた。ああいう考え方も面白いと思うけど・・・和室の独立柱なんかで根継ぎをする場合は、この柱にはそんなに大きな力がかからないという判断のもとに行う必要があるということだね。何が何でも根継ぎが良いわけではない。日本人は、大工さんの木工技術を過信しているところがある。釘を一本も使わない構造が一番強いと信じている人が結構いるんだよね」
「ただそれは、本当に頑丈な土壁でできているような構造ですよね」
「それに以前は、大きな地震で倒れたら仕方がないというのが前提だった。でも、今は、どんなに大きな地震がきても、絶対壊れては困るとか・・・お客様の要求が過大になってきた。近所の家がほとんど倒れるんだったら仕方がない、とは考えてくれない(笑)」
「家の強度に対する考え方が最近変わってきましたから、昔のようなルーズな考え方では、建築士としての責任を果たしていないと判断されてしまいますよね」
▲腐っていた柱の下部を除去し、金輪継によって柱を継ぎ足した例
↓↓金輪継のワザ↓↓

こんな風に加工します。複雑!



嵌合せて…



キッチリ栓をします!

『古民家再生』その8

◆古民家の2階床梁は最低限の太さ◆

「古民家では、2階を居室として使っているケースが少ないよね。でも、小屋裏はすごく魅力的な雰囲気だから、部屋として使いたくなってしまう(笑)。昔は製材した角材が高価だったから、2階の床梁は最低限の太さの木材しか使っていないでしょう?家を造るために、何年もかけて木材を揃えたという話もよく聞くしね。最近は、2階で生活してもたわみがないように・・・そういう基準で木材の太さを計算するんだけど、昔はそこまで考えていない。だから、結構揺れるよね」
「建築基準法では、柱と柱の間隔の12分の1以上の梁のせいを確保するように規定されていますよね。特別の事情がある場合は構造計算をして、曲げとたわみのチェックをするべきです」
「それは樹種も考慮して?」
「建築基準法では樹種による区別はしていません。ただ木造の場合、手慣れた人は樹種別に経験値でチェックしている場合が多いですよね。でも・・・木材は曲げには強くないから、2階の床梁の構造強度が極端に足りないような場合は、あまり面白くないでしょうけど・・・鉄骨を入れるのも有効な補強方法でしょうね」
「東海地方の古民家はほとんど3尺(約90㎝)ピッチに2階の床梁が入っているよね。でも、関東へ行くと一間(約1.8m)ごとにしか入れない。本当に材木を節約して家を造るらしいよ。東京の設計士さんが描いた設計図が雑誌でよく紹介されるから見ていると、確かにそうだね。私が設計士になったばかりの頃、吉村順三さん※1の図面を参考にして設計図を描いたことがある。地元の工務店さんにその図面で見積もりをとったら・・・“こんな設計図ではとても怖くて工事できない”と言われた(笑)。その理由を尋ねたら“強度的には大丈夫かもしれないけど、2階の床がふわふわするなんてクレームがきたら・・・やり替えがききませんよ。そんな危険を冒すより梁を倍入れた方が安くつきます”だって。結局、3尺ピッチで梁を入れる設計に直して、お願いした。東海地方は木の産地だから木材が高価だというイメージがないけど、関東や関西の人にとって木材は貴重なんだね。特に、国産の木材は高価だから節約して・・・という意識が当時は確かにあった。最近は、相当考え方が変わってきているようだけど・・・確かに建築基準法の規定もあるけど・・・菅野企画設計では2階梁の梁せいを柱と柱間の10分の1確保するようにしている。それに比べると、古民家の梁はすごく細い」
「岐阜市のA邸は、二間(約3.6m)幅にかかっている梁のせいが15㎝でしたよ。とても建築基準法の12分の1に足りない。今まで壊れなかったんだからいいんですけど(笑)」
▲古民家の2階床梁は細い!
▲3尺ピッチに入っている古民家の床梁
※1 吉村順三さん
20世紀に活躍した日本の建築家の一人。(⇒Wikipedia

▲弊社では柱スパンの1/10の梁成を確保しています。

『古民家再生』その9

◆古民家は再生しても寒い!は間違い◆

「次に、気密と断熱性能を向上させる方法ですが・・・。やはり古民家は寒い、隙間風がすごいのが現実ですよね。冬、打ち合わせをしていると、ストーブを横に置いてもらっているのに背中がぞくぞくしてくる(笑)。でも、雑誌や体験記に、古民家は再生しても寒いもんだというようなことが書いてあるのは、ちょっと違う。菅野企画設計の古民家再生は全くそういうものではないですよね?」
「工事をするのなら断熱性能も良くしたいと。せっかくお金をかけたのに寒い!暑い!の生活を強いられては・・・。インテリアのリフォームをする場合は柱と柱の間に断熱材を充填しますし、室内側から工事ができない場合は外断熱をします。基礎を新しく造る場合は、基礎断熱にする。床下換気をする場合は壁の中に気流止めを作って、床下の空気が壁の中に侵入しないように・・・ケースバイケースで新築並みの断熱を確保するように工夫しています。」
「お風呂は?」
「古民家は、ほとんどの場合、在来工法つまり壁にコンクリートブロックを積んでタイルを張ってあるような構造ですね。ユニットバスに取り替えれば、断熱性能は画期的にアップすると思いますよ。」
「古民家のお宅に伺うと、とんでもないお風呂に入ってる場合が多いよね。本当に隙間だらけ。よくこれで今まで過ごしてきたなあと感心する(笑)。壁と床のタイルには隙間ができていて・・・洗い湯はどこへ流れていっているのだろう?とても不思議になる。そういうお風呂はまずシロアリの巣になっている。住宅設備を現代的にすれば、気密性も断熱性も向上して快適になると思う。特にお年寄りが同居している家庭にとってはすごく大事なことだよね。」
「そうですね、室内の温度差がないようにするのはとても大事だと思いますね。」
「古民家に住んでいる方の年齢層は相当高いよね。それなのに家の中の温度差がすごくある。特にお風呂、裸になる所がものすごく寒い。昼間に調査をさせてもらっていても寒いんだから・・・このお風呂に裸で入るのは危険だと思うよね。現実に、お風呂で死ぬ人は交通事故よりも多いんじゃない?」
「そうなんですよね。」
「だから、断熱性能の向上というのは大きな問題なんだよね。本当は命に関わる話だといえる。ところが今までは、古民家はそんなもんでしょうで済ませてきた。古民家再生した家に暮らしている方の随筆で、家の天井に結露した・・・なんて驚くべきことを読んだ。微笑ましい話のように書いてあったけど、それは完璧に断熱不足ですよ。設計か施工ミスです。やりやすいところやできるところだけ、断熱と気密性能を向上した結果じゃないかなあ。」
▲屋根下地の間に断熱材を充填した例
▲土壁を残して外断熱をした例
室温との温度差が大きい程、血圧の変動が激しいことがわかります。(国民生活センター「高齢者の浴室事故防止マニュアル」

『古民家再生』その10

◆開放的な間取りと断熱性能は矛盾しない◆

「古民家と呼ばれる家には、昔たくさんの人が大所帯で暮らしていたわけです。でも今は核家族化して、小人数で暮らしていますから、襖で仕切ったような開放的な部屋や窓だらけにする必要はないですよね。だから、リフォームを機に壁を増やして耐震補強をして欲しい。壁を多くしたほうが気密や断熱性能が向上するわけですから・・・冬寒いとか、夏が暑いとかいうこともなくなる、つまり、気密と断熱性能を向上させながら耐震性能もあがるんじゃないでしょうか。」
「その辺りまで考えて間取りができるのは、やはり菅野企画設計のノウハウですよね(笑)。古民家に住みたい人は、窓を開けると風通しがいいとか、北側の窓からいい景色が見えるとか、木に囲まれて暮らしたいとか・・・現代的な家に住みたい人とは少し違うライフスタイルを望んでいると思う。気密や断熱を高めると同時に耐震性能も高める必要がある、だけどそれプラス風通しがいいとか、開放性があるとか・・・そういう要求も満足させていく必要がある。ここが大切だと思っているんですよ。いろいろ実績を積んでいるなかで、間取りの工夫をし、性能を高める工夫をしてきた・・・それがノウハウになっていると自負している。和室が何部屋も繋がっていると開放的で気持ちがいい、でも、そういう家こそ気密性や断熱性を高めないと冬は寒いし・・・床下を基礎断熱にしないと、足がつめたい。そこは合理的に考えないとね。そうすれば、お客様が望んでるライフスタイルと快適性が矛盾しない。」
「私も、そうだと思います。」
「君たちの望む古民家再生は?」
「やはり性能も良くしたいです。だからといって、部屋を細かく仕切ったり、柱をボードで隠して(大壁にして)クロスを張るようなメージではなくて、今までの間取りを生かして、なおかつ暖かくというのがいいと思います。」
「現実的にそれが可能なんだよね。でも、そのかわり工事費が余分にかかるというのも現実だけどね。」
「それから、大規模な古民家再生は合理的に考えたり、工事ができるのでいいんですけど、そうじゃなくて、建物の一部をリフォームしたいというお客様も多くいらっしゃるので・・・気密性能や断熱性能の向上とか耐震の考え方も色々工夫していく必要があると思います。」
「古民家じゃないんですけど・・・古いお寺のリフォームを設計するときは、寺院全体の気密や断熱性能を高めることができないですよね。そういう時は、とにかく住居部分だけは高気密高断熱に、という提案をしたりします。要望や状況を見ながら、ケースバイケースで最適な提案をしていくのが大切なことだと思います。」
「日本の建築は、何から何まで法律でがんじがらめ。新築はもとより、リフォームでも増築が伴えば建築確認申請が必要になる。例え申請が下りた建物でも、地震で壊れたらだれも責任を取ってくれないけどね(笑)・・・ところが、今のところ古民家再生は法律の縛りがない。だから、今、野村君が言ったようにケースバイケース、お客様が何を求めているのかをよく理解して対応できるということだから、ありがたいよね。ただ、耐震補強や性能アップを全部、ということになると工事費が・・・。だから、このくらいの予算で、というご要望に充分対応できるだけの引き出しを持つ必要があると思う。まあ、今まで積み上げた経験からすれば、きっと対応できるでしょう。これからも古民家再生はどんどんやっていきたいと思います。」
▲古民家に多い開放的な田の字型間取り。
▲既設の土壁をそのまま残すため外壁の外に断熱材を施工する外断熱工法を採用した例。
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