家づくりのノウハウ/フリートーキング

テーマ 「古民家再生 Part.1」

参加者紹介

菅野良司
高い設計力、気さくなスタッフ育てています。
野村建太
こだわって下さい!家はライフスタイルを表します。
長井真美
家族のたくさんの「想い」に応えたい。
武田亜紀子
「こんな家にしたい!」思いをたくさん聞かせて

『古民家再生』その1

◆古民家再生をしようと思う動機◆

菅野(以下
「お客様は、どんな動機で古民家再生をしようと思うんだろう?具体的に聞かせてください。」
野村(以下
「岐阜市のA様は、ご先祖が残したもの、想いを引き継ぎたいということだったのかなと。ご主人も奥様も、古民家の風合いが好きだということではなくて……古民家再生に踏み切った動機は違うところにあったような気がするんです。ご先祖が一生懸命建て、残した屋敷を、なんとかして伝えていこう。そういう強い意志を感じました。」
▲ポーチ柱の根元が腐って、短くなったため、屋根が垂れ下がっていた。
「あの家は築何年くらい経っているの?」
「100年以上です。」
「長い間庄屋さんだった?」
「そう聞いています。面積も非常に大きくて、120坪あります。」
「貴人口もあるよねえ?ご主人はあの家で育ったということだけど、それより、自分の先祖が代々あそこで生活をしてきた、その歴史を残していきたい。そんな想いも確かに感じた。」
長井(以下
「私が担当した瀬戸市のI邸も、大工だったおじいさんが建てた家を残したいという想いを強く感じました。それから、若奥様が、古民家調のデザインや歴史を刻んだ色とかがすごく好きで……家族皆さんがこの家を残そうという気持ちで一致していました。」
「あのお宅の場合は、30年ぐらい年前に、お父様が住宅の一部を現代的にリフォームされていたんだよね?ところが、その部分を壊して古民家風にリフォームしてしまった(笑)。つまり、古いまま残っていた家の半分に合わせて全体をリフォームしたというやり方だったね。」
「そうです。」
「岐阜市のN邸は?」
「N邸は、うなぎの寝床のような細長い町屋※1で……一番奥の倉庫が中庭に面して明るい場所※2だったので、そこをダイニングキッチンと水廻りにリフォームしました。あの当りは、古い町並みが大切にされている地域なので、自然に、古い建物を生かして……という発想になったのかなと思いました。」
「お客様も、間取り的にはとても住みにくい家ですと言ってみえたけれども、あの雰囲気は気に入っていらっしゃる。だから、古い構造材を活用するという提案を大歓迎してくださった。」
武田(以下
「東海市のK邸は、お客様が第一に、耐震性能に対する不安を持ってみえました。実際に調査してみたら……予想以上に痛みが激しくて、家も北側に相当傾いている状態※3でした。だから、先ず何より安全に住めるようにとして欲しいと。それから、ご両親がご高齢で、病気勝ちだという事情もあったので、現在の間取りをあまり変えずに、しかも体に負担をかけないような家にリフォームしたいと……相談にみえた娘さん夫婦は、和風や古民家のデザインがすごくお好きで、今の雰囲気をそのまま生かしてリフォームしたいと希望されました。」

◆古民家の魅力◆

「ホームページの古民家再生の表紙には「古民家は宝物です」と書いてあるけど(笑)……君たちは歴史を刻んだ建物が好きだといつも言っているよねえ?古民家を見て、どういうところに魅力を感じるの?」
「調査に行った時、最初に気になるのは、差鴨居(さしかもい)※4が使ってあるのかどうかということです。差鴨居が使ってあれば狂いも少なく、いい状態が保たれている場合が多いので……その強さには魅力を感じます。それから、ケヤキの大黒柱とか、今ではなかなか見られない、くねくねした松丸太の小屋組みとか……昔の人は、手に入る木材を色々な技術を駆使して造ったんだなあと……そういう仕事の技に私は魅力を感じます。」
「古民家を見に行くと、使ってある木材が大きくて……しっかり頑丈な感じを受けます。昔の人は材料を大切にして、くねくねした木材でも、手間をかけて組み上げている※5。そういうのを見ると、すごいなぁ!って感心してしまいます。それから、木材同士の継手(つぎて)や仕口(しぐち)に、込み栓とか鼻栓がしてあるのを見ると、ちょっと嬉しくなりますね(笑)」
「私も、使ってある木材の大きさや構造に魅力を感じるのはもちろんなんですけど、歴史を重ねてきた色※6に……新しくては絶対出せないものなので、すごく魅力を感じます。それから、和室の天井板に無垢材が使ってあったり……今だったらすごく高価につくことが、昔は当たり前だったんですよね。」
「ハウスメーカーの家は、結局合板だらけですよね。本当は、古民家のように本物を使いたいけど、お金がかかるしメンテナンスに困るから合板にする……なんか偽物文化がどんどん広がっている気がする。だから、古民家を調査すると、ああ本物だ!と安心するし、本物に触れた喜びを感じますよね。私たちが古民家と呼んでいる住宅は、築80年以上経っている・・・でも、100年以上の住宅にはなかなかお目にかかれないよねえ。実は、1891年、今から118年前に濃尾大震災が起きたんですね、この辺りに。この濃尾大震災は、マグニチュード8を超えていた・・・阪神大震災が7.2、関東大震災が7.9なので、近年では日本で一番大きな地震だった。その地震がこの辺りを襲って、壊滅的な被害を与えたわけですよ。だから、その地震の後に建ったものしか残ってないんじゃないかと僕は思ってるんですよ。・・・地震の後に建てた家は、多分近くに生えている樹を切ったり、手に入る木材を、大切に使ったと思うんですよ。今みたいに製材された材木がふんだんにある時代じゃないからねえ。曲がった木でも、古材でも大切に使おうと……そういう意味では、手間よりも材料を大事にしているということでしょう。その辺りが今の価値観とは全然違うし、逆にそれが魅力になっていると僕は思う。」
●改修前の古民家の様子
※1 N邸の玄関
▲うなぎの寝床のような間取りでは、両隣の住宅と隙間がないため、壁に窓が設けられません。玄関ホールは2階がないため、天窓によって明るい空間にできます。
※2 N邸の倉庫
▲中庭に面した明るい土間は物置になっていました。
※3 東海市のK邸
▲見て分かるほど建物は傾いていました。
※4 差し鴨居が入った住宅。天井板は無垢板。
※5 見えない小屋裏でも、伝統継手や仕口を使い、丸太も丁寧に組まれています。
※6 木材に含まれる油分によって、梁や天井板が飴色になり、いい味を出しています。

『古民家再生』その2

◆なんでこんな構造になっているの?◆

「古民家再生の相談を受けると、菅野企画設計では先ず、その建物を実測しますよね。屋根裏※7床下※8まで丁寧に……ただ、うちのスタッフは古民家が好きなので、半分趣味になってるんじゃないかと心配ですが(笑)」
▲縮み杢の入った栃の一枚板。こういった銘木におめにかかれることも古民家調査の楽しみです。
「最初に間取りを調査しますが、それと同時に柱の倒れとか……建物がどういう風に傾いているんだろうとかを考えながらとりかかります。目で見たり測ったり・・・柱と梁の接続部分の離れ具合を見て、力がこんな風にかかったから建物が傾いたんだなとか……それから、調査をしながら、この建物の魅力は何だろう?はたしてこの建物は残すべきなのだろうか?とも考えます。例えば、こんな太い差し鴨居(さしがもい)が使ってあるんだから是非残すべきだ!とか、この地棟(じむね)なら建物はまだまだ蘇るぞ!とか……ですね。」
「この家を耐震補強やリフォームしたとして……これから、どのくらい持つのかなあ?と考えながら調査しますね。それから、構造材が健全かどうかは、しっかり見るようにしています。床下の柱が大分傷んでいたり……過去にリフォームされてる場合も結構多いので、その時傷めたところがないか?も注意して見ます。」
「2階の梁や小屋組みの架け方は詳しく……この梁は残さないといけないとか……構造も意識して調査するようにします。」
「調査していると、なんでこんな構造になっているの?なんてことが結構あるんだよねえ。多分、材料優先なんだよ、昔は。だから、ぐねぐねと曲がったような木を複雑に組んだり……そんなことしたら手間がめちゃめちゃかかるでしょ!(笑)というようなことがあちらこちらにしてある。きっと大工さんは、手に入る木材をうまく使える策を練って造ったんじゃないか?それから、適当と言ったら失礼かもしれないけど、その時の気分で工夫していることもあるような気がして仕方がない。大工さんも結構楽しんでいる。」

◆水廻りは、特に気をつけて調査をする◆

「実は先日、ビックリしたことがあって……現在工事中のA邸の梁がちょっとささくれ立っていたので、大工さんがちょっとめくってみたら、どんどん剥がれてきて・・・気がついたら梁の厚みが3分の2くらいになってしまったと。監督さんが、どうしたらいいでしょう?と相談してきたので、見に行って爪を立ててみると、スポンジみたいになっていて・・・でも、目視だけでは全然傷がない状態。ところが、まるで皮のように一枚一枚綺麗に剥離してくるんですよ。ネットで色々調べてみたんですが・・・バクテリアがそこで繁殖したらしいんです。これには、ちょっと怖くなってしまって……慌てて、金槌で他の梁も叩いて確認しました。今回の部位は、構造的に問題となる部位ではなかったのでよかったんですが。」
▲スポンジ状になっていた丸太の内部。目視ではまったく判りませんでした。
「以前、屋根をはぐったら、小屋裏の梁が雨水でびっしょり濡れていて、シロアリの害にあっていたなんてことがあったよ。早速取り替えてもらったけど、水が全体に沁みていて、とんでもなく重たかった・・・。外壁に貼ってある板がベロベロになっていたり、土壁が落ちて下地が見えているような状態だったら要注意だね。屋根瓦がずれて下地の土が見えている場合も、天井に雨が漏っていなくても、必ずどこかに漏水している。土に沁みた雨水がどこへ行っているのか?必ず何かあるぞ!と考えた方がいい。それから、長井君が言っていたけど、以前に改築がされている場合は要注意だね。例えば岐阜市のN邸もそうだったけど、便所をリフォームしたときに、木の土台を土に埋めちゃっていた。つまり、土台の存在を無視して土を入れてその上にコンクリートの土間が打ってあった。そんなことをすれば当然土台は腐ってしまうよねえ。そのまま放置しておくと・・・柱が土台にめり込んで、大ごとになる場合もある。だから、水廻りは、特に気をつけて調査をする。調査できない場合は、水廻りの柱や土台は全部取り替えるように設計したほうがいいと思う。」
「そうですね。N邸は風通しの悪い敷地だったので、壁や床をはがしたら、予想以上に土台がボソボソに腐っていました。土台はできる限り取り替えるような設計になっていたのでよかったですが……。」
▲体裁だけ良くして、水の関係を無視したリフォームは良く見かけられます。写真はN邸の改築部分。シロアリの被害がひどい。
※8 床下の状態も確認します。
▲古材を新築に利用することもあります。写真は差し鴨居を解体時点で部分取りしている様子。
▲長押を部分取りしている様子。造るよりも手間がかかります。
▲小屋組の状態を調査。雨漏りがないかもチェック。長期間人が住んでいないと小屋梁が腐っている場合も。
※7 現況の小屋組を調査している様子。仕口の状態等を確認します。

▲複雑な小屋梁の構造。曲がりくねった地棟に左右から登り梁をかけて、込み栓打ちして固定しています。とても手間がかかる仕口ですがいかにも丈夫そうです。この古民家は飛騨の匠が泊りがけで6年かけて建築したそうです。貫も楔だけでなく込み栓まで打ってあります。

『古民家再生』その3

◆設計に生かせそうなネタを見つける◆

「岐阜市のN邸は、家族がみんなで寛ぐリビングが欲しいので、床が土間になっている薄暗い倉庫をリフォームして欲しいというのがお客様の希望だった。でも、調査に行った時、歴史を重ねた梁とか……設計に生かせそうなネタ※9をちゃんと見つけてきたんだよね?」
「そうですね。これはインテリアデザインにも生かせるなぁと(笑)。でも、これは隠さないと、とか……。」
「デザイナーとしては、ある意味下心を持ちながら調査していると(笑)」
「瀬戸市のI邸も、リビングの天井を吹き抜けにして、小屋梁を見せる提案をしたんですけど……予算の問題で残念ながら実現しませんでした。でも、吹き抜けにして梁を見せたら素敵だろうなぁと。」
「東海市のK邸も、梁がすごく太くて、色も味があって……。最初に見たときから、これはインテリアに生かそうと※10考えました。」
「古民家を調査する場合、当然構造も大事なんだけど、この部屋のデザインはこうしたいとか、そうすれば、この構造材が生きてくるんじゃないかとか……デザイナーの目で見ているのは確かだね。伝統工法の木造は、梁を掛け変えたり、柱を立てたり、壁を移動したり、構造的には変更がききやすいでしょう。もちろん、抜けない柱はあるけど、まあ、ある程度の自由は効くと。だから、この部分に光を当ててやると魅力的になるぞ!というような視点はとても必要な事だと思うね。」
「岐阜市のA邸も、屋根裏の床には板を貼って綺麗にして……魅力的な異空間ができると楽しみにしていたんですけど、お客様は「そんなことしなくてもいい!倉庫で充分です」とおっしゃったので残念だなぁと思っていたら、工事が進むに従って、お客様がだんだんノッてきて、「床や壁にヒノキの板を貼ろう」と。うれしかったですねぇ(笑)」
「東海市のK邸も、設計した時は2階の母屋を隠そうと、施工上それしか無理だろうと思っていたんですけど……現場で大工さんに確認したら、見せることもできるよと言ってくれて……運よく変更できました。」

◆くねくね曲がった梁の下をかがんで通る◆

「屋根裏については、工事が進んでくるとお客様の気が変わることが多いよね。部屋として充分使えるんじゃないの!?とか。」
「そうですね。天井の高さは低いし、くねくねした梁が掛かっているので、使いものにならないだろうと思うんでしょうね。でも、天井が低いのはごく一部だけで、屋根の傾斜に合わせて天井を斜めにすれば、充分な高さになります。」
「A邸もK邸も、梁の下をかがんで通るんですよね(笑)。それでもいいと。そんな様子がなかなか面白い。最近は、木材に対する感覚が変わってきて、ちょっと割れがあったり、節があったりするとクレーム対象になるらしい。でも、くねくね曲がった梁の下をかがんで通るような生活を始めると……そのほうが自然なんじゃないかと思えてくる。木はこう曲がってるんだから、その下をくぐればいいと。その辺の柔軟性が必要で、何でも人間の都合に合わせようとするのは、間違っているんじゃないかと思う。多少の不便さは楽しんでしまう、というのも古民家再生の面白さかもしれない。それから、古民家に使ってある木材をよく見ると、使い回し材が多いよね。変なところにホゾ穴があいていたり……昔の人は木材を大切に使ったんだなあと感心させられるよね。」
「本当にそうですね。」
「ただ、古材が使ってあるところは、よく検討する必要がある。K邸でもそうだったけど、今回のリフォームで相当補強してもらったよね。」
「そうですね。リビングの柱もしっかり補強しました。結局とても太い柱になりました。」
「特に小屋束とか、床下の大引きには本当によく古材が使ってありますよね。でも、傷みのひどい物は取り替えた方がいいと思います。」
※9 N邸リフォーム前に見つけた“ネタ”
▲リビングのインテリアに古材を活かしました。
※10 K邸リフォーム前に見つけた“ネタ”
▲玄関のインテリアにそのまま活かしました。
▲K邸小屋裏の梁下は1m30cm程度しかありません。

『古民家再生』その4

◆家に対する想いが無いと長持ちしない◆

「古民家のどんなところに魅力を感じる?」
「造った大工さんの手仕事を見ることができる。これが何と言っても一番ですねえ。継手・仕口だけじゃなくて……今はなかなかやらない、チョウナハツリとか……そんな手仕事の跡を目にすると、ああ面白いなと思いますね。それから、工夫ですね。大工さんは、こんな工夫をしたのかと。例えば、岐阜市のF邸では、天井の吊り木に竹が使ってありました。普通は木ですよねえ。竹は伸び縮みが少ないので、あえて選んだのかなとか。各務原市のK邸では、ホゾに鼻栓がしてありましたが、より強く食い込むような加工がわざわざしてありました。そうところを細かく見ていくと、その家を造ったときの大工さんの想いが伝わってきて……。それから、A邸は材料が素晴らしかった。柱が特に素晴らしかったですねえ。木目のつまり具合が半端じゃなかったです。」
「昔は家を建てるとなると、相当時間をかけて木材を集めたようだね。」
「そうでしょうねえ。」
「小屋梁なんかは、近隣に生えている松を使ったみたいだけど……柱とか差し鴨居なんかは、やはり時間をかけて揃えたんだと思う。建築主にしても、大工さんにしても、家を建てることに対する気持ちが、現代とは全く違うよね。だから、長持ちする。逆に言うと、家に対する想いが無いと長持ちしないんじゃないかなあ。金物で頑丈に補強したからフリーメンテナンスで100年は持ちます、なんていうのは嘘でしょう。やはり、この家はいい家なんだから長持ちさせようという気持ちを住み手が持っていないとね。どんな家でも、20年や30年経ったらリフォームが必要になるから、その時に、愛着があるかどうかだよ。その辺りが、すごく大事な問題だと思うんだけど……どう思う?」
「岐阜市のN邸へお邪魔したとき感じたんですけど、通された部屋の天井がすごく綺麗だったんですよ。お聞きしたら、おばあさんが普段から磨いていらっしゃるんだと。古民家には必ず格子が嵌っていますけど、普段の拭き掃除で、だんだんこう、角がとれて、丸くなって……。そういう状態を見ると、大切に使っているんだなあと思いますねえ。」
「そうだね。でも、そういう掃除が大変だから、逆に民家は嫌われるという面もあるけどね、実際は(笑)。」

◆手も入れないで100年持つ建物なんて無い◆

「現在設計を進めている一宮市のE邸は、床面積が90坪以上ある大きな2階建。現況を見せてもらったら、1階は木材も建具も素晴らしかった。でも2階は造りかけ……こういうことはよくあるんですが……1階はしっかり造って、2階は家族が増えた時手を入れればいいということで、壁も荒壁のままになっている。構造的にも、1階に比べるとちょっと貧弱な感じがした。そこで、2階を壊して、平屋建てにしたらどうかというアイデアを考えた。お客さんも、こんな大きな家は維持できないから、平屋建てにできれば大変助かると。古民家のような柱梁構造は、そういう柔軟性が魅力だと思う。間取りの変更に対しても自由度が高いし……。最近、住宅の耐久年数を100年にとか200年になんて話をよく聞くけど……。」
「ハウスメーカーの家が100年持つなんて、信じられませんよねえ(笑)」
「全くだよねえ。しっかり造ってあるお寺でも、手も入れないで100年持っているなんてことはほとんど無いんですよ。現在は重要文化財になってる伽藍でも、過去に1回はぼろぼろになった歴史を持っている場合が多い。じゃあ、何で蘇ったのかというと、悪くなったところだけ取り替えることができるんですよ。柱の根元が傷んだら根継ぎをする、破風が傷めば取り替える、全体に傾けば立て起こしをする……古民家のような在来工法の建物は、そうやって直すことができる。だから、結果的に長持ちしている。」
「それに、古民家は無垢材が使ってあるから、長持ちしますよねえ。」
「先ほど、古民家は掃除が大変だという話をしたけど、現在では塗装もよくなって……例えば床は傷がつきにくくて、掃除はカラ拭きでいいと。ただ、合板では、直射日光に当たると10年から15年で表面がひび割れてくる。無垢材なら、そりゃあ長持ちしますよ。ハウスメーカーの家だと、建具の表面にも木目柄の薄板や紙が張ってあるけど・・・古民家は建具も無垢材が基本だというのがうれしいよね。確かに毎日手をかければ綺麗だけども、それじゃあ大変だから、そろそろ手かけようか、でも遅くはない。無垢材だったらね。私自身が子供の頃、そういう家に住んでいたから……そんな感覚ですよね。」
▼ちょうな。刃が横になり手前に向く。
▲ちょうなハツリ
▲臍(ほぞ)。

『古民家再生』その5

◆やりなれてない工務店や設計士は、面倒くさいと思う◆

「古民家再生に踏み切るかどうか?お客様は迷っていると思うんですよねえ。私たちに相談をするときは、決心をした後のことが多いわけだけど……どうも話をお聞きすると、色々な経緯を経ている場合が多い。お客様が古民家再生に踏み切るきっかけは何だったんだろう?」
「東海市のK邸の場合、相談にみえた娘さんは耐震強度が不安だったし、年老いた両親の身体に負担になってきて……何とかしなくてはいけないと。でも、古民家再生に踏み切った一番大きな理由は、お父さんがかなり頑固な方で、どうしても家を壊したくないという強い想いを持っていたことでしょうね。家族の中に1人そういう人がいるのは大きいですよ。古民家再生は予想以上に工事費がかかるので、便利な家を安く建てたいというだけなら、新築の方に流されてしまうと思うんです。頑固な人がいると……この建物を生かしてみようか?と家族も考えるようになるのかなあと。」
「そうだね。あのお宅へ初めて伺ったとき、あの周りで一軒だけがポツンと、時代に取り残されたような感じがした(笑)。この家を残すことが本当にできるのかと心配になったけど……娘さんの話を聞いたら、どうしてもお父さんがこの家を残したがっていると。もちろん、自分たちもあの家に愛着があったんだろうけどね。」
「家族の意見がまとまらないと、古民家再生に踏み切れないというのが現実だと思いますけど……家の中に段差があるとか、水廻りが使いにくいと悩んでいても、本当によくなるのか不安に思っていらっしゃる場合が多いんですよ。そういう方が私たちプロから『できますよ』という言葉を聞くと、それでほっとされて、一歩踏み切れる。」
「菅野企画設計は結構、助け舟を出すよね。できないことは無いと(笑)。やりなれてない工務店や設計士は、面倒くさいと思うんじゃないかなあ。不幸にしてそういう人に頼んだら、古い家の良さなんか何も分かってないから、きっと、どこかが違う古民家にしてしまうんじゃないかなあ。」

◆コンパクトな家を造った方が工事費は安く済む◆

「現在設計中の一宮市のE邸は、以前から計画のあった道路がいよいよできることになって、80年以上経った家を壊すか、曳く必要がでてきた。息子さんは近くにハウスメーカーで家を新築してしまったから、70歳代のご主人と奥様が二人で暮らすことになる。さてどうしたらいいのか?で、相談にみえたんだけど……家を曳いて、古民家再生するより、コンパクトな家を造った方が工事費は多分安く済みますよ、二人で暮らすんだったら、面積は35坪もあれば十分だからねえ。ただ、その家に対して愛着があるのなら、色々な方法論があるんじゃないですかと、申し上げた。そうしたら、しばらくして、『愛着』という言葉が気になって、壊すのが忍びなくなったとおっしゃって、設計の依頼に来社された。」
「岐阜市のA邸のご主人は頑固な、こうと決めたら梃子でも動かない方ですが……奥様は当初、古民家再生に反対されていました。それが理由で、古民家再生に踏み切るのが遅れたのかなあと。ただ、今思えば『やるんだ!』という強い意思を持った方を私たちプロがフォローする、ひとつのストーリーになったのかなあと思いますけど。」
「あのご主人は、自分の生家を再生しようと決心して、来社された。ただ奥さんは全然乗り気じゃなかった。本当に厭そうだった。だから、手紙でお断りをした。奥様が工事に賛成していらっしゃらないのを無視して先に進んでも、いい結果にならないでしょうと。しばらくして、またご主人から電話がかかってきて『是非、お願いしたい』と。でも、奥様の雰囲気は以前とそんなに変わっていなかった(笑)。最近、工事がだんだん進んできて……大分変わられたかな?」
「そうですねえ。」
「A邸は、常識的な古民家再生とは違って、大変ユニークなデザイン手法を採用した。ご主人の『古いものをただ再現しても仕方が無い』という感覚が面白いよね……それにしても、ご主人は一体何を残したかったのだろう?正直、今でも大きな謎ですね。私がもっと年をとると、その謎が解けるのかなあ。」

▲間取図と合わせて、パースを作成し、お客様にお見せします。ご家族で話し合う際にも、パースがあると、イメージがし易く「古民家再生」のきっかけにもなります。

『古民家再生』その6

◆スクラップ&ビルドは世界の非常識◆

「古民家再生というと、日本では特殊なことのように思われているけど、実はヨーロッパでは当たり前。築80年とか100年の建物をリフォームして使うほうが常識ですよね。だから、街に歴史が刻まれていく。手をかけた跡がどんどん残っていく。例えば、二代前の住人が窓廻りに彫刻を施して綺麗にしたら、それが後世に残っていくんだよね。おしゃれなインテリア雑誌で、パリのアパルトマンとかロフトを改装した写真が紹介されているでしょう?考えてみれば、古民家再生ですからねえ(笑)、早い話が。」
「なるほど。」
「日本人は戦後、スクラップ&ビルドを続けてきたから、それが常識になってしまった。でも、そんなの世界の常識じゃない。最近、100年住宅とか200年住宅なんて簡単に言うけど、愛着の湧かない家は絶対残らない。こんな家は建替えた方がいいと判断されれば、もう壊されてしまうんだから。残す価値のある、愛着のある家を残すことは、何も特殊なことじゃないんだよ。」
「ただ……特殊なことじゃないといっても、調査方法とか構造の補強とか、判断を誤ると、せっかくの建物が台無しになってしまう可能性が高いから……菅野企画設計のようなノウハウがあるところに頼むべきだと(笑)。」
「一般の人は、古い家が安心安全な家にリフォームできるんだ、ということが理解できなくて……。私の実家も古い家なんですけど、おじいちゃんは残したくて残したくて仕方がないんです。でも、私の両親は……おじいちゃんが頑固だから残っているんです(笑)。」
「長く残ってきた民家は、大変質がいいんだということを、私たちが教えてあげる。そうすることで、ちゃんと残せるんだ、残すべきなんだということを理解してもらいたいですねえ。」
「そうですね。」
「先日リフォームが完成した一宮市のK邸はご主人の実家で、今は、お母様が一人で住んでいらっしゃいます。この家は、大工さんだったご主人のお父様と叔父様が二人で造ったそうなんですが……建てられてからまだ40数年なんですけど、差鴨居が入っていてしっかりしています。ご主人はこの家を大変気に入っていて、ちゃんと残していきたいと。でも、多分奥様は、なんであんな家を残さなきゃいけないの?という感覚なんですよね。私が、色々な古民家の写真をお見せして「この住宅は絶対残すべきですよ」とお話ししたら……「ほらな、言っただろ」と、ご主人が奥様にぼそっと言ったのが印象的でした(笑)。」

◆国も、法律的にバックアップしてほしい◆

「日本人はどうも家を使い捨てるものだと思ってるんだよ。でも、国の姿勢もよくない。だって、建築基準法は10年くらいでころころ変わるでしょ。住宅の寿命がいくら100年に延びたって、法律が変わったら違反建築になってしまう。こんないい加減なことではいかんのじゃないかと。」
「確かに、建築基準法は変わりすぎますよね。」
「例えば、最近の建築基準法の改正で、24時間換気が義務付けられたけれども……機械で家中を強制換気しなくてはいけないという理由が分からない。専業主婦がいる家なら1日何度か窓を開けるということでもいいんじゃないか。どうして、そこまで法律に書かなければいけないのか。法律に書かれた時点で、それまでの住宅は違反建築になってしまう。だから増築をしようとすると、家中24時間換気の設備を完備しないと確認申請が出せないなんて馬鹿な話になる。違反建築には銀行だってお金を貸してくれないし、どんどんつらいところに追い込まれていってしまう。」
「築100年経った家は、みんな違反建築ですよね。」
「これからは長持ちする家を造ろうというなら、国も、法律的にバックアップしてもらいたと思うね。日本はありがたい事に、山には木がふんだんにあるし、大工さんもたくさんいる。ところが、日本の木は使われないし、大工さんも仕事がないなんて……信じられないような状態になっている。日本にはせっかく資源があるのに、それを使わないハウスメーカーの家ばかりが建っている。本当に残念だと思うよね。ただ、菅野企画設計では、新築住宅を造る場合も、将来の古民家になるような住宅を造っていこうと思っています。」
▲歴史刻まれるヨーロッパの街並み。古民家再生は、何も特別なことではありません。
▲日本の山にはたくさんの木があるんです。